トラスロッドの限界
トラスロッドをどれだけ締めてもネックが反る。
トラスロッドを締めすぎてネックを壊してしまう。
そんなこともありました。
トラスロッドの締めすぎによるネックの破損
そもそも、こんなことを書いているのは、トラスロッドの締めすぎで、ネックを1本ダメにしてしまったことがあるからです。
具体的には、トラスロッドを締め込んでいる時に「パシッ」という音がして、以後、どう調整しようとネックがねじれてしまうようになったのです。
そもそも、ネックのねじれって調整しようがありません。
修理が必要です。
1弦の弦高はやたら高く、4弦の弦高はベッタベタです。
泣きそうです。
おそらく、トラスロッド付近のネック内部にき裂が発生、進展していったものと思われます。
トラスロッドがネック中心部を貫通しており、そこを締め込んでいるので、き裂はネック内部から発生するのが普通と考えられます。
ネック表面に目視確認できるほどの割れやき裂はありませんでしたが、ネックの異常は明らかでした。
トラスロッドナットを回しきる
ネックを壊してしまったベースとは別に、トラスロッドナットを回しきってしまったこともあります。
学習してません。
ちょっと太めのフラットワウンド弦を張っていたら、思いのほかテンションが強く、ネックが反ってしまいました。
当然、トラスロッドナットを回してネックの反りを調整します。
この場合、順反りが強くなっているので、トラスロッドナットを締める方向、時計回りに回します。
温度や湿度に伴ってネックの反りは変化するので、必要に応じてトラスロッドを調整するんですが、なんだか一方的に締めつけているような気がしてきました。
というか、トラスロッドナットを緩めた記憶がありません。
で、当然その日はやってくるわけです。
ついに、トラスロッドナットを回しきってしまいました。
この間、約5年。
トラスロッドナットを締める方向に回すには、以前からかなり力が必要だったのですが、最終的にはぐっと力を入れても全然回らず、「コッ」という木のきしむような音がして、ようやく事態に気がつきました。
木製のネックを金属製のトラスロッドで締めつけているので、強度的には必ずネックが負けます。
以前のように、力ずくでトラスロッドナットを回し続ければ、再びネックを壊してしまうでしょう。
トラスロッドを締める場合は、ナットを回すのに必要な力が以前に比べて急激に大きくなっていないか、特に注意が求められます。
かろうじてトラスロッドを締めることができたとしても、それに異常なほどの力を要する場合は、そこでやめておくべきです。
トラスロッドの限界というより、ネックの限界を、人間の側がくみ取ってやらなければなりません。
そして、トラスロッドを緩める方向へ調整するにはどうしたらいいか、具体的に考えるべきだと思います。
トラスロッドナットを回しきった状態ですべきこと
トラスロッドナットを回しきった状態というのは、楽器にものすごく負荷がかかっています。
弦はそのネックが扱える最大限の張力のものが張られているはずで、これに対応するため、トラスロッドはネックに全力で圧縮と曲げの力を加えています。
つまり、力をもって力を制する限界です。
これではらちがあかないので、一旦弦をすべて緩めて様子を見ます。
ネックを、弦から受けている圧縮の力から解放するのです。
この状態でネックが逆反りするようなら、トラスロッドは機能していることがわかります。
逆に、弦を完全に緩めても順反りしたままなら、すでにトラスロッドの調整でどうにかなるものではありません。
トラスロッドはもう回せないぐらい締めつけられているはずですから、そうなるとトラスロッドやネック自体に問題がある可能性が高いです。
ネックが逆反りすることを確認したら、今度はトラスロッドを緩めます。
トラスロッドナットが空回りするほど、完全に緩めてしまいます。
つまり、弦からもトラスロッドからも、ネックがまったく力を受けていない状態にします。
そして、この拘束が解かれた状態で、ネックの反りを確認します。
トラスロッドナットを回しきったようなネックであれば、おそらく、順反りのクセがついていると思います。
ここから同じようにトラスロッドと弦を調整しても、また元の状態に戻ってしまうことは明らかです。
ネックの反りは、力を受けていない状態で放置しておくと、ある程度は収まってきます。
木は、金属ほど塑性変形しませんから。
反ったネックを復活させるためにダメもとでやるなら、ちょっとしたヒートサイクルが効果的かもしれません。
ネックが力を受けていない状態のベースを、ハードケースに入れて、夏場、日中クソ暑くなる部屋に1週間ほど放置していたら、意外に元に戻りました。
もちろん、楽器によくないので、おすすめしません。
対策
同じあやまちを繰り返さないために、ここからが重要です。
ネックが単体で逆反りする、つまりトラスロッドが機能していることがわかったら、あとは楽器としてのバランスの問題です。
ネックは、弦の張力とトラスロッドの張力を受け、それぞれの生み出す曲げの力がつり合うように調整されます。
トラスロッドナットを回しきってしまうということは、それぞれの力が強すぎて、バランスがとれなくなってしまっている状態です。
つまり、そもそも弦の張力が強すぎるのです。
以前と同じ弦を張っていれば、以前と同じようにネックが反ってくる可能性が極めて高いです。
楽器にとって、オーバースペックな弦なのです。
そこで、弦を1段階細いゲージに張り替えます。
これだけで、トラスロッドに必要な張力は格段に弱くなります。
本当です。
トラスロッドの張力は、弦によって発生するネックに対する曲げの力につり合うように決められます。
簡易的にトラスロッドが3点で支持されていると考えると、トラスロッドの張力は、弦の張力にほぼ比例するはずです。
たとえば、ダダリオのラウンドワウンド弦で、ゲージごとの張力を比較してみます。
ゲージ | 1弦 | 2弦 | 3弦 | 4弦 | 合計 (kgf) | |
---|---|---|---|---|---|---|
050-070-085-105 | EXL160 | 24.22 | 27.26 | 21.95 | 18.28 | 91.71 |
045-065-080-100 | EXL170 | 19.41 | 23.27 | 19.05 | 16.55 | 78.28 |
ゲージを1つ細くするだけで、張力は13kgも変わります。
率にして、およそ15%の差です。
弦の直径は10%も変わっていないのに、です。
つまり、ゲージの見た目以上に弦のテンションは大きく変化しており、それに比例してトラスロッドに必要な張力も大きく変化する、ということです。
何事も、バランスが大切です。
弦は、ヘビーゲージほど偉いわけではありません。
妙なヘビーゲージ信仰はやめましょう。
私も含め。
また、ブリッジサドルで弦高を上げると、ネックに加わる曲げモーメントが大きくなります。
当たり前ですね。
従って、できる限り弦高を低く抑えたセッティングがネックに優しいのは、事実として間違いありません。
弦のゲージが細いうえに弦高が低いと、奏者には繊細なタッチが求められます。
逆に考えれば、太いゲージで弦高を上げて、力ずくのピッキングをするというのは、楽器にとっても力ずくなのです。
ちなみに、前述のトラスロッドナットを回しきってしまったベースは、再調整後、数年が経過していますが、今でも問題ない状態です。
トラスロッドの調整幅にも、十分な余裕があります。
というか、トラスロッドを調整する回数自体、激減しました。
トラスロッドを緩める方向へ調整するなんてことも、以前にはありえなかったことです。
何でもすぐ楽器のせいにしがちですが、トラブルのほとんどは、使用者側の問題なのかもしれません。